2015年に新型となったYZF-R1をベースにMTシリーズのフラッグシップモデルとして誕生したMT-10。発表当時は生物と機械の融合したようなフェイスデザインが話題となりました。異形ライトもここまで来たか、という感じです。その上、中身もしっかり化け物なのが恐ろしいところです。
MT-10 2017-
ストリートファイターというとSSのカウルを外したネイキッドという表現をされがちですが、ヤマハに関してはただカウルを外しただけという様な仕事はしていません。MTシリーズの中でも一際癖の強い、これまでとは全く異なる異形ライトを装備してレーサー然としていたYZF-R1とは差別化を図りました。ホイールも刺激的な黄緑色を使用し、ストリート仕様として独特な派手さを演出しています。ヤマハではMT-10を「Ray of Darkness」となんともハイセンスに表現されています。
YZF-R1とMT-10のカタログスペックを比べてみると、エンジンの圧縮比は12:1と、R1の13:1より若干引き下げています。サーキット走行特化でピークパワー重視、回してナンボのSSは高圧縮化して多少低回転を犠牲にしてもユーザーは問題にしないと思いますが、ストリートでの実用域が売りのネイキッドバイクでは低回転域でのギクシャク感が大きくては困ります。ビッグパワーのリッターバイクが街中で使っている回転数は1速5000回転も回せば良い方で、街乗りの快適性を考えるならこの辺りのフィーリングは無視できません。トルクの力強さが売りのMTシリーズらしいチューニングかな、と思います。
またMT-10は低回転からのパワー感に注力されており、最大馬力自体は引き下げられています。ピークパワーは、YZF-R1の200馬力/13500回転に対し、MT-10では160馬力/11500回転です。最大トルクは同等ですが、これもMT-10の方が低い回転数でトルクを得る設計になっています。主に利用が想定される市街地やワインディング向けに中低速をある程度太らせている様です。またあまりピーキーな特性にせず、扱い易さを優先したとも言えます。
左側のハンドルにはトラクションコントロールのスイッチが設けられており、エンジン出力を最適にコントロールすることが可能です。合わせて装備されたスリッパークラッチも、一気にシフトダウンした際、適度にトルクを逃がしてリアタイヤが暴れだすことを防いでくれます。
フレームと長めのスイングアームは総アルミ製で軽量化と直進安定性の向上に貢献しています。ホイールベースもYZF-R1の1405mmから、MT-10は1400mmとたった5mmではありますが、わずかに微調整を加えられています。基本的にホイールベースは短い方が旋回性が高くなるため、MT-10はR1よりも若干小回り優先に調整されている様です。その分、サーキットの限界速度で安定させる方向にはR1の方がカウルも付いており向いていると言えるでしょう。
シート高は825mmと決して低く有りませんが、R1に比べると引き下げられており、バーハンドル化と合わせ、少し起こし気味のポジションです。フォーク径、キャスター角等はこの2つは同一です。また意外なことにカウルの無いネイキッドバイクのMT-10の方がYZF-R1よりも重たくなっています。YZF-R1が装備重量199kgに対し、MT-10はカウル無しでも210kgと5%程度重量が増加しています。
メーターはMT-10もYZF-R1同様に大型の液晶パネル式メーターを採用しています。パワーモードやトラクションコントロール等システム面の違いで同一の物は使われていませんが、SSの場合燃料計等はカットされるので、街乗りやツーリングベースに使うには多くの方の場合、MT-10の方がフレンドリーです。
またMT-10をベースに様々な快適装備を追加することでツーリング性能を高めた「MT-10 ツアラーエディション」も海外では登場しています。元のデザインを崩さずに使い易さが向上しました。
車体側の主な変更点としては長時間のライディングに対応したコンフォートシート、防風性を考慮したウインドスクリーンやハンドガード、それに荷物を詰め込む両方のサイドケースが追加されたことが特徴です。
またコクピット側にはTomTomのGPSナビが使用できる様になっています。見知らぬ土地でも道に迷わない様に良く配慮がされています。ツアラーエディションは、MT-10の高い走行性能をそのままに、より快適で長いツーリングを楽しみたいライダー向けのパッケージです。
更に2017年モデルでは上位グレードとしてMT-10 SPが設定されました。
これはYZF-R1Mで見られたオーリンズの電子制御サスペンションへの換装と、それに伴うメーターの液晶パネルの交換といったよりスペシャリティ性の高い内容になっています。ベースモデル自体もマッピングの修正や、シフトアップを補助するクイックシフターの搭載等、より強化されています。