2018年はBMWのミドルクラスが刷新され、F700GSもF750GSにモデルチェンジしました。F700GSは、電子制御面でフルスペックのR1200GSに比べると簡素化されていましたが、今度のモデルチェンジで上位車種譲りの電子制御がこのクラスにも与えられることになりました。既にR1200GSにも劣らないという評判の新型ですが、実際に試乗して両者を比較しました。
目次
舗装路上のオールラウンダー
BMWのミドルクラスにはF7–GS系とF8–GS系の2つが有って、前者は舗装路中心のオールラウンダー、後者はオフロードの走破性重視の個性派といった感じで住み分けが為されています。
特にF8–GS系はBMWのラインナップの中でもオフロード適性が高く尖ったバイクに設計されているのが特徴です。その分ライダーも身長180cm以上の体格を求めるスパルタンなモデルで、非常に先鋭化されています。
デュアルパーパスに期待されるオフロード性能はそっちで担っている為、今回紹介するF750GSや先代のF700GSは主に舗装路での運用を想定しています。基本的にはアスファルトや石畳、それに落ち葉の積もったワインディングロードなど、ちょっと道の悪いところも快適に走行出来る、というバイクです。
その分、よりマイルドで、BMWが得意とする疲れずに何処までも走っていきたくなる特徴を色濃く反映しています。
特に今回のF750GSやF850GSで注目されているのは、
・乗り味がRシリーズ的になり、見劣りしない物になった
・BMWが売りにしている最新の電子制御が盛り込まれた
この辺りです。
実はF750GSの試乗はとても楽しみでした。というのもR1200GSを購入するとき、もう一つの候補が先代のF700GSだったからです。ミドルクラスの車体は街中でも扱いやすく、当時大型バイクの大きさに少し辟易していた僕にとって凄く魅力的でした。
結局もう一つ大きいR1200GSを選んだわけですが、F700GSは常に気になる存在でした。今回はその新型ということで、R1200GSにも追いついたと噂される乗り心地をチェックしてみたいと思います。
車体構成 ☆☆☆
念のため注釈を入れると、ここでの評価はどれだけRシリーズに近づけたかどうかで分けています。F750GSそのものは、このクラスでも非常に完成度高くまとまった良いバイクです。
まず外見ですが、シュラウドのデザインは一新され、F8シリーズと近い物になりました。
F700GSの頃はスタイリングの格好良さでF800GSの方が一歩勝っていたので、個人的にこの改良は好印象です。サイレンサー、シート形状、ホイール、外観はほぼ全てに手が入っています。メーターも上位車種と同じ大画面のTFT液晶に変わって高級感は俄然高くなりました。
跨がった時の印象としては、大柄なR1200GSとはスペック以上の差を感じます。とにかくスリムでコンパクトです。ゴツイR1200GSと対照的に、華奢でスマートな印象を受けます。
25kg程、F750GSの方が軽いのですが、体感ではもっと軽く、400ccと大差ないレベルです。
足つきも良く、多くの日本人にとってR1200GSよりもフィットしやすいサイズ感になっています。とにかく等身大な大型バイクで、この点はR1200GSと比べても非常にフレンドリーです。
ただ唯一納得のいかないのは、この短いウインドスクリーンです。
F700GSの頃からメディアを中心に「これでも十分効果有る」という触れ込みでしたが、精々メーターしか隠れないこのサイズのスクリーンでは防風性能はネイキッドと大差無いです。
ちなみにF850GSの方はもうちょっとロングです。R1200GSの様な可変スクリーンとまでは言いませんが、F850GS相当のロングスクリーンを付けても良いのではと思います。
特にF750GSを買いたい人はツーリング性能を重視しているはずなので、もう少しプロテクション機能が欲しいです。オプションでラージシールドが有りますが、出来れば標準でラージにしてくれると嬉しいですね。エンジンガードやハンドガードもオプション扱いで少しノーマル時が寂し過ぎます。
ノーマルの防風性能はハンドガードなど一式標準装備されるR1200GSに比べるとかなり差が有ります。
エンジン性能 ☆☆
エンジンは新設計された853cc並列2気筒エンジンです。これは水平対向のR1200GSと比べると当然ながらキャラクターが大きく異なります。この853ccというのは2気筒としては大排気量の部類で、国産車なら「そろそろ4気筒」と2気筒から4気筒に切り替わるレベルです。
「ドドドド」と重低音が響く水平対向エンジンに比べ、F750GSのパラレルツインは「パパパパ」と乾いたサウンドで良い意味でスポーティでパンチの効いた音を聞かせてくれます。元気良く走ろう!とライダーをその気にさせてくれるサウンドはF750GSの方が勝っています。
このエンジンの特徴として、従来の360度クランクを270度クランクに換え、その分2つのバランサーで振動を抑えていますが、ライダーを縦方向に揺する振動は少し大きめです。
走り出しからフラットなトルク特性で、大排気量車に想像されるグワッとパワーが出てくるような荒々しさは有りません。ライダーのスロットル操作に沿ったパワーを正確に出力する、と言った感じでナーバスな点は感じませんでした。カタログ値は2馬力アップした77馬力で、これは主に想定する一般道の走行では体感上も不足は無いです。
回した時の気持ちよさ ☆
ただし高回転に行くほどスムーズさを感じるフラットツインに比べ、このエンジンは少しノイジーで正直回したときの気持ちよさは控えめです。レッドゾーンもR1200GSと比較してより低いところに設定されており、はっきりとトルク型です。
その分出足のトルクの厚さやトラクションのかかり具合はとても良く、車体の軽さも有ってグイグイ押し出す感じを受けます。
パワーモードは「RAIN」、「ROAD」、「DYNAMIC」、「ENDURO」の4つで、普段ならROADかDYNAMICでしょう。DYNAMICに設定すると気持ち排気音が大きくなり、パワー感も向上します。しかしF750GSのツーリングバイクとしての特性にはROADの穏やかさが一番マッチしているように思います。
またF750GSにはシフトアップ&ダウンに対応したクイックシフターが設定されています。これが非常に優れものでシフトダウンのスムーズさは街乗りでも十分な恩恵が受けられます。
一方シフトアップは6000回転以上でシフトアップなので街中では2速でもその回転数で十分な速度に達してしまいます。低回転に気持ちよさの有るエンジン特性も加味すると、高速道路に乗らないとあまり恩恵を受けられないかも知れません。
ツーリング性能 ☆☆
F750GSはその軽量コンパクトな特性を活かした小回りの良さが魅力です。
特に市街地での低速の回頭性に長けており、街乗りでの自在さはR1200GSを凌ぐ物が有ります。向こうはどうしても低速のコーナーリングで「よいしょっ」と重さを引きずる部分が有りますが、そうしたシチュエーションでF750GSはより一体感を得られます。
反面、回頭性とトレードオフになるのが直進安定性です。高速道路でも矢の様に直進するR1200GSに比べ、F750GSの車体は少し落ち着きの無さを感じます。直進安定性を上げるとF750GSのクイックさを損なってしまうので、バランスとしては今の状態がベストかもしれませんね。
オプションは盛り沢山、自分好みにカスタム可能
F750GSのオプションパーツは純正品がかなり揃っており、各ライダーの用途に合わせて自由にカスタマイズ可能です。シートも非常に豊富で、日本人に合わせたローシートから、欧米仕様のハイシーと、フラットなラリーシートまで揃っています。
容量可変のフルパニアも用意されていますから、積載性も十分です。ただし全部で20万円は流石純正と言った値付け…。
これはF750GSをベースにした救急車両で、パニアケースなどは市販品をそのまま使用しています。
スピードレンジ次第ではR1200GSを超えた活躍も
両者を比較してみると得意なスピードレンジの違いを強く感じます。
R1200GSというバイクが60km/hから120km/hで気持ちの良いバイクなら、F750GSは30km/hから90km/hが最も気持ちの良いバイクです。
R1200GSは大きく重い車体のために街中を前走車に付いて30km/hほどで走るというのはあまり楽しくないです。F750GSはそうした低速走行時もバイクを運転する気持ちよさを得られやすいバイクと言えます。
R1200GSは目的地まで高速道路でひとっ飛びというバイクですが、F750GSなら片道は下道にしてみるか、と思える下道特性の高さが特徴です。そういう意味では日本国内で走るにはR1200GSよりよっぽどオールラウンダーと言えるのかも知れません。G850GSほどでは有りませんが、軽い砂利道などもこいつで十分走れます。
ただし、ロングツーリングとなるとRシリーズとの差はまだ感じました。
これは大柄な車体を活かした直進安定性の良さ、水平対向特有の振動の少なさなどF750GSに無いものが非常に絡んできますが、日に500kmを超える様なツーリングなら、個人的にはR1200GSを選びたいです。特にR1200GSもR1250GSにマイナーチェンジされてより隙が無くなったことも有りますが。
F700GSとF750GSなどどっちが買い?
F750GSの発売で旧型のF700GSが今まで以上にお得に買えるようになりました。単純に価格だけを見るとF700GSはかなり魅力的です。
ただし、ツーリングバイクと考えるとF750GSはクルーズコントロールやクイックシフターなどの機能面のアップデートが数多く、個人的にF750GSを推したいです。
特にクルーズコントロールは高速道路の巡航でアクセル操作をほぼ必要なくしてくれるため、ロングツーリング時の疲労度が段違いです。
大型へのステップアップとしては非常に優しいパッケージング
先ほども書いたとおり、F750GSの車体は400ccと大差なく、250ccクラスからの乗り換えでもあまり違和感がありません。最初の大型バイクとしては、いきなり乗っても戸惑うことは無いと思います。
また全体的にトータルバランスを重視した設計で癖が有りません。
NC750XのDCTやメットインといった飛び道具、MT-09 TRACERの気持ちよく回る3気筒の様な独特な個性に欠けますが、疲れずに縦横無尽に走り回るツーリングバイクとしては良く出来ています。この疲れにくさ、扱いやすさから女性にも優しいです。
中型クラスにG310GSを投入したBMWですが、もう一つ上質のツーリングバイクとして、免許と予算が許すならF750GSという選択肢も魅力的です。
F750GSはR1200GSと同じ様に使えるのか?
最後にこの点について記載します。そもそもR1200GSは現行型が中古でも200万円以上が相場、一方のF750GSは新車で140万円ほどなので同じ様に使えるならかなりお買い得でしょう。
しかしF750GSとR1200GSに関しては、これまでにも書いた通り、キャラクター性が大きく異なります。そのため同じバイクとして扱うことは出来ません。
F750GSは『良く曲がり、ライダーとの一体感が高く安心してツーリングを楽しめるバイク』なら、R1200GSは『多少の一体感を捨てて高い安定性を出すことで超ロングツーリングを快適にしたバイク』です。実はF750GSの懐の広さに比べるとR1200GSは幾つかのポイントを犠牲にしています。その結果、ロングツーリングの快適性を生み出しているわけです。
仮にR1200GSは1日に1000kmのツーリングにも耐えますが、F750GSではライダーの負担がかなり大きいです。逆にR1200GSは1日100kmの様な短いツーリングではライダーの疲れが少なすぎて物足りなくなってしまいます。
なのでもしR1200GSに求めるものをF750GSに求めるなら、それは選択として誤りです。F750GSの魅力は常にバイクと一体になったツーリングを楽しめることで、その1点においてはR1200GSともF850GSとも異なる魅力を持っています。